汎スラブ主義・土壌主義・ロシアメシアニズムを唱える者としての言論活動、反ユダヤ主義の言論
生涯の後半において、創作のかたわら、氏は仲間と共にあるいは個人で雑誌を編集し、時事評論・社会問題への発言を活発に続け、ジャーナリストとしても活躍していますが、氏がその雑誌編集や言論活動において取った独自な立場に関する理解も、一方で必要です。
その立場は、当時のロシアの独自の歴史的状況(スラブ主義と西欧主義の対立など)の中で、「汎スラブ主義」「土壌主義」「汎アジア主義」などと称されている。
社会や知識人たちが伝統的なロシア的根源や土壌を忘れて安易に西欧化(近代化)されていくことを批判し、神を孕(はら)むロシアの民衆(ナロード)とのつながりや ロシアの伝統的な土着精神(ロシア正教や民間信仰)を基盤としていくことを重視する氏の立場(土壌主義)は、全集に収められている『作家の日記』『論文・記録』『書簡集』で述べられている氏の考えや、小説では『悪霊』の登場人物シャートフなどに見られる考えに、具体的に詳しくあたって理解する必要がある。
ドストエフスキーは、近代ロシアのスラヴ派思想史の中の重要な一人として、位置付けられている。
ドストエフスキーは、「ロシアとロシアの民衆」の「性格や優秀面、将来における使命(ロシアメシアニズム思想など)」に関して生涯思いをめぐらせていた作家であると言える。
なお、
氏のユダヤ人嫌い(ユダヤ人憎悪)とユダヤ人の経済活動への疑義と批判に基づく、反ユダヤ主義・ユダヤ人排斥の言説は問題ある偏見の言論であるとこれまで指摘されてきたが、氏が反ユダヤ主義をとった事情・背景やその内実については、今後、さらなる検討が必要であろう。
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