近世の主な俳人と句集
(更新:24/11/02)
赤字は、代表的な俳人。
青字は、その他の俳人で、
特に注目したい俳人。
『 』は句集・連句集・俳文集。
山崎宗鑑
『犬筑波集』
荒木田守武
松永貞徳
『新増犬筑波集』
石田未得
安原貞室
鶏冠井 令徳
野々口 立圃
半井卜養
北村季吟
山口素堂
松江重頼
『犬子集』
西山宗因
『談林十百韻』
『西翁千句』
池西言水
上島鬼貫
田代松意
菅野谷 高政
岡西惟中
内藤露沾
前田由平
小西来山
大淀 三千風
井原西鶴
北条団水
椎本才麿
松尾芭蕉
〈蕉門の俳人〉
榎本其角
服部嵐雪
各務支考
岩田涼莵
服部土芳
向井去来
森川許六
野沢凡兆
志太野坡
内藤丈草
杉山杉風
越智越人
立花北枝
河合曽良
山本荷兮
浜田洒堂
池田利牛
小泉孤屋
服部沾圃
広瀬惟然
菅沼曲水
任口上人
斯波園女
八千代太夫
「俳諧七部集」
(『冬の日』『春の日』
『曠野『ひさご』
『猿蓑』『炭俵』
『続猿蓑』)
早野巴人
水間沾徳
与謝蕪村
『夜半楽』
『新花摘』
高井几董
黒柳召波
稲津祇空
慶 紀逸
伊藤祇明
炭 太祇
夏目成美
桜井吏登
大島蓼太
安井
大江丸
太田巴静
横井也有
『鶉衣』
中川乙由
和田希因
高桑闌更
三浦樗良
松岡青蘿
神沢杜口
松木淡々
武藤巴雀
佐久間 柳居
加藤暁台
加舎白雄
井上士朗
建部綾足
加賀 千代女
二六庵 竹阿
小林一茶
『おらが春』
鈴木道彦
建部巣兆
倉田葛三
成田蒼虬
桜井梅室
井上井月
平賀源内
上田秋成
紀 海音
並木五瓶
芭蕉の名句選
松尾芭蕉が残した1000
余りの句の中から、
私の好きな句を選び、
各々、〔背景〕〔語注〕
<感想>を付した。
現在、6句ほど掲載。
1
命二つの/中に生きたる/
桜哉(かな)
〔背景〕
芭蕉が、滋賀の水口(みなくち)の満開の桜の木の下で、芭蕉が大津を発ち東海道を下ったことを聞いてぜひ会いたいと慕って追ってきた服部土芳(とほう。同郷出身の友人。のちに、芭蕉の門人となる。)と20年ぶりに再会した時に詠んだ句。芭蕉42歳の時の作。
〔語注〕
・命二つ=生命が再会の喜びにひたっている芭蕉と土芳の二人のこと。※芭蕉は、句や文章で、自己や人間を「物」として表現することがしばしばあった。・の中に=の中で。の目の中に。・生きたる桜=よりいっそう生き生きと目に映えた、目の前の桜。
<感想>
旧友との再会の喜びのいのちにひたっている二人の目で再度見上げると、見上げていた満開の桜がいっそう生き生きと二人の目に映えた、ということであり、自然の光景に作者の感動を反映させた、実にしみじみとした印象鮮やかな名句。
2
若葉して/御目の雫(しづく)/
ぬぐはばや
〔背景〕
芭蕉が、初夏の青葉あふれる奈良の唐招提寺(とうしょうだいじ)の境内(けいだい)にある鑑真の座像を拝した時に詠んだ句。芭蕉45歳の時の作。鑑真は、幾度もの難破の末、ついに日本渡航を成功させ、日本に仏教(律宗)を伝えた奈良時代の中国の高僧。渡航中に失明し、盲目のまま日本の仏教の興隆に尽くした。本国には再び帰ることなく、日本の地で没した。
〔語注〕
・若葉して=初夏の境内に照り映える若葉を用いて。・御目の雫=あなた(目を閉じている座像の鑑真)の御目ににじんでいる悲しみの雫(=涙)を。※「雫」は、「若葉」の「縁語」になっていて、「涙」の意味を含めている。・ぬぐはばや=ぬぐってさしあげたい。※「ばや」は古い助詞。(・・・)ばや=(〜し)てあげたい。・・・は、未然形となる。
<感想>
鑑真の悲しみや苦労・鑑真の成した仕事に対する芭蕉の深い思いやりといたわりが表現されている句だと思います。鑑真和尚は、この若葉あふれる美しい奈良の自然を、さぞかしその目で見たかったのに違いない、家族のいる故郷の中国にも戻りたかったのに違いない、ということも、芭蕉は思ったのでしょう。
3
あらたふと/青葉若葉の/
日の光
〔背景〕
「おくの細道」の旅中の日光東照宮に詣(もう)でた際に詠んだ句。芭蕉46歳の時の作。
〔語注〕
・あら=ああ。※感嘆語。・たふと=尊いことよ。※「尊し(たふとし)」を簡略化して書いた用法。・青葉若葉の日の光=初夏の境内(けいだい)の青葉や若葉が、真昼の太陽の光を浴びて照り映えているさま。※「日の光」は、寺名の「日光」の意味も含めている。
<感想>
徳川家康をまつっている日光東照宮と安泰たる徳川幕府の威光への賛嘆も含めて、境内の初夏の青葉若葉が真昼の光あふれる中で輝かしく照り映えている一大光明の世界への感動が表現されていて、実に印象鮮やかな名句。
4
菊の香や/奈良には/
古き仏達
〔背景〕
九月九日の重陽(ちょうよう)の節句(菊の節句)に合わせて、奈良の各寺を参拝した際に詠んだ句。亡くなる一ヶ月前にあたる晩年の51歳の時の作。
〔語注〕
・菊の香や=ちょうど菊の節句の日で、境内や道すがら、菊が飾られ、菊の香が漂っているさま。・古き仏達=参拝してまわった各寺の境内や道すがらの古い時代の仏像たち。
<感想>
訪れた奈良の各寺の境内や道すがらの仏像達と、各所に飾られ並べられている菊とそのまわりに漂う香との組み合わせに芭蕉が心ひかれた様子が詠まれていて、不思議な奥行きと味わいを持っている句。
5
秋深き/隣は何を/
する人ぞ
〔背景〕
関西に旅行して、旅中の宿で詠んだ句。亡くなる一ヶ月前にあたる晩年の51歳の時の作。
〔語注〕
・秋深き=秋は深いことよ。秋も深まってきたことよ。※連体形止めの用法。詠嘆表現となる。・隣=隣の部屋に泊まっている見知らぬ旅客。・何をする人ぞ=隣の部屋の泊まり客は、いったい、どういう身分・職柄の人であり、ひっそりとして声も物音もたてないけれど、今、隣の部屋で何をしているのだろう。
<感想>
知られた有名な句。旅中のもの寂しい秋の夜の深まりのなかで、人間相互の孤立した孤独さ・他人との心の触れあいを求めようとする心がしみじみと表現されている晩年の名句。
6
旅に病んで/夢は枯野を/
かけ廻(めぐ)る
〔背景〕
初めて九州に行く予定だった旅中、病気にかかり、投宿した大坂の宿の病床で詠んだ句。芭蕉は、そのままその宿で亡くなるが、その亡くなる四日前に詠んだ51歳の時の作。この句を「辞世の句」とみなさない学者も多い。
〔語注〕
・旅に=旅中で。・夢は枯野をかけ廻る=病床で見る夢は、自分が冬の木々の枯れきった野をかけめぐる夢ばかりだ。
※俳諧や旅への自分の夢(=元気になって好きな旅を続け、もっとすばらしい句を作りたいという願いや執念)が、病床の心の中に思い浮かべる旅中の枯野をかけめぐる、と取るも可か。
<感想>
亡くなる直前の、病床にある芭蕉の内面の孤独な心象風景(しんしょうふうけい)と、病床にあってもやまない旅と俳諧への思いが詠まれた絶唱であり、読むたびに、いたく心を打たれます。
近世の秀句
芭蕉の句以外で挙げました。
現在、以下の1〜6の6句を掲載。
1
与謝蕪村
なのはなや/昼ひとしきり/海の音
※ひとしきり=海の音が、いっとき、
盛んに続くこと。
2
小林一茶
夏山や/一足づつに/海見ゆる
※海見ゆる=海が眼前に見え
てきたよ。
3
炭太祇
美しき/日和(ひよ)りになりぬ/雪の上
※日和りになりぬ=晴天になったよ。
※雪の上=降り敷いた雪の上方は。
4
池西言水
木枯(こがらし)の/
果(はて)はありけり/
海の音
※果(はて)はありけり=吹き
すさぶこがらしも、海へ至る
と消えてしまったということ。
5
椎本才麿
白雲を/吹きつくしたる/新樹かな
※吹きつくしたる新樹かな=山
中の雲を息を吹きかけて追
いやったかのような山中
に広がる新樹であるよ。
6
志太野坡
行雲(ゆくくも)を/
寝て居(い)て見るや/
夏座敷
※寝て居て見るや夏座敷=横
になって見ている夏の座敷
であるよ。
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