ドストエフスキーの
異端派(分離派・去勢派
など)への関心のこと
(1〜11)
投稿者:
Seigo、
大森、オドラデク
(1)
[287]
ドストエフスキーの異端派(分離派・去勢派など)への関心のこと
名前:Seigo
投稿日時:08/05/04(日)
ドストエフスキーは、当時としてはロシア正教の異端とされた異端派(分離派・去勢派など)へも関心を示し、彼らに関する情報や文献を集め、また、作中でも、登場人物をその宗派に属した人物としてしばしば描いています。
・異端派(分離派・去勢派・鞭身派・逃亡派など)はどういった教えや信仰活動を 行なう宗派であったのか
・ドストエフスキーは彼らのどういった点に関心を持ったのか
・作中で登場人物にそれらの宗派を配したこと
などについて、情報・意見・気付きがあれば、述べてみて下さい。
* * *
当時のロシアの異端派のことについては、日本でその方面のことの先鞭(せんべん)を付けた江川卓氏や引き続いて亀山郁夫氏が最近紹介しているものが、まず、参考になります。
(2)
[309]
RE:ドスト氏の異端派(分離派・去勢派など)への関心のこと
名前:大森
投稿日時:08/05/12(月)
私は、ドストエフスキーの関心というか信仰が分離派から正教に移っていったのではないかと思っていま
す。「罪と罰」では、主人公の救い手ソーニャは自分の聖書を持っていて、分離派らしいと言われています。しかし、「悪霊」において、スタヴローギンが自ら の告白を読んで確かめてもらうのは、チホンという正教の修道士です。「カラマーゾフの兄弟」に至っては、正教の修道士ゾシマが、イワンの無神論に対峙し
て、ドストエフスキーの考えるキリスト教的な真理を告げ知らせるのです。一方、スメルジャコフが分離派だと言われていますが、彼は、間違った教えにはまり 込んで自殺する者のように描かれます。
ドストエフスキーは、晩年に至るほど、正教にこそ真理があると思っていったのではないでしょうか。
(3)
[344]
RE:ドスト氏の異端派(分離派・去勢派など)への関心のこと
名前:オドラデク
投稿日時:08/06/21(土)
「カラ兄弟」4巻中のイワンがスメルジャコフを二度目に訪問する場面に、スメルジャコフの卓上に書物があって、本の題名が「我らが尊き師父イサアク・シーリンの言葉」と記してあって、イワンが機械的にその表題を読んだとあります。
解説には、イサアク・シーリンとは中世のキリスト教異端派の隠れ聖者で、老僕グレゴリーがその著書を愛読していたともあります。
(4)
[362]
RE:ドスト氏の異端派(分離派・去勢派など)への関心のこと
名前:オドラデク
投稿日時:08/07/27(日)
亀山氏が、あくまで仮説であるとしながら「スメルジャコフの父親は誰なのか?」について次の様に書いています。
「スメルジャコフが生まれる1842年まで、下男のグリゴーリーは旺盛な性欲をもてあまし、それとは知らず異端派(鞭身派)の集会に顔を出していた。ある
ときその儀式にまぎれこんだリザべータと関係を結んだ彼は、スメルジャコフの出産に立ち合い、自分が父親ではないかという「いまわしい疑い」を抱いた。ス メルジャコフが異端派の会合で身ごもられた子どもであるなら、本当の父親がだれかなど分かるはずもないが、グリゴーリーは、リザベータの「妊娠」が公に知られるようになってから、おそらく自分の子どもではないかと心ひそかに疑ってきた。六本指の子どもの誕生という事態にもすっかり打ちのめされていたのである。こうしてスメルジャコフが生まれた後、グリゴーリーは、自分が足を運んでいた集会がどういうものであったかを後に書物をとおして知ることになった。」
(「ドストエフスキー」謎とちから 亀山郁夫著 ページ227より。)
僕は興味深い説だと感じました。
皆さんはどう思われますか?
(5)
[384]
RE:ドスト氏の異端派(分離派・去勢派など)への関心のこと
名前:オドラデク
投稿日時:08/08/15(金)
ドスト氏当時のロシアでの異端派には、分離派・去勢派の他にどんなものがあったのでしょうか?
韓国の宗教で僕の友人が合同結婚をした、寄生派(ヤドカリ大一族派)の様な流派はありましたか?
寄生派(ヤドカリ大一族派)の場合、関わる者は扶養義務を負う・信者になれば大口献金が出来る権利を得る等の特典があります。
また、ロシア異端派の巡礼規模は、森の中を彷徨い歩く老人・映画「砂の器」に登場する父子巡礼・家族巡礼・大一族巡礼のどれでしょうか?
寄生派(ヤドカリ大一族派)の場合は大一族巡礼です。
また去勢派のマリア(スメルジャコフの同居人)は、朝鮮のマンセームーダン=それを作品化した三島由紀夫(も楽しんだ)の遺作「天人五衰」の天女”絹江”、と同ランクの強裂・爆発存在なのでしょうか?
ご存知な方は教えて下さい。
(6)
[390]
RE:ドスト氏の異端派(分離派・去勢派など)への関心のこと
名前:オドラデク
投稿日時:08/08/19(火)
去勢派と寄生派の比較図を作ってみました
宗派名 所在 所属国 教義 儀式 容姿 色 持病 女性信者 巡礼規模 特典
去勢派 創作 ロシア 去勢 性器去勢 黄色い顔 白 癲癇 マリア 森の中 なし
(+現実)
寄生派 現実 朝鮮半島血統転換合同結婚 元から黄色白 火病 ムーダン 一族巡礼 扶養義務
(ヤドカリ大一族 ) 天女絹江 大口献金
現実にいる朝鮮のマンセームーダン(巫女)と並ぶのは、創作中の人物しかありません。
三島由紀夫の遺作「天人五衰」の天女”絹江”のみです。
ぶっちぎり・爆走です!
天女”絹江”について、意見を聞かせて下さい。
(7)
[391]
RE:ドスト氏の異端派(分離派・去勢派など)への関心のこと
名前:オドラデク
投稿日時:08/08/19(火)
訂正
宗派名 所在 所属国 教義 儀式 容姿 持病 聖母 巡礼 特典
去勢派 創作 ロシア 性器 去勢 黄色顔 癲癇 マリア 森の中 なし
寄生派 現実 韓国 血統 合同結婚細目 火病 ムーダン一族 扶養義務
(8)
[410]
RE:ドスト氏の異端派(分離派・去勢派など)への関心のこと
名前:オドラデク
投稿日時:08/09/15(月)
去勢派問題に関して、貝澤先生が「男と女が近い」「普遍幻想」等の視点から的確に指摘しています。
精神分析によるロシア文化の新たな読解
―I・スミルノフ、A・エトキントを中心に―
貝 澤 哉 (早 大)
http://src-h.slav.hokudai.ac.jp/
sympo/Proceed97/kaizawa.html
(9)
[419]
RE:ドスト氏の異端派(分離派・去勢派など)への関心のこと
名前:オドラデク
投稿日時:08/10/03(金)
誰もが関心を持つのは、去勢派、鞭身派共に各派の聖女ですね。
去勢派の聖女マリア(スメルジャコフの花嫁?)はスメルジャコフの元にスープをもらいにやって来ます。
寄生派の花嫁は「*の毛まで抜かれる」と言われている通りに、はるばる海を越えて*の毛を抜きにやって来ます。
「合同結婚でも日本人同士のカップルならば安心だろう」と思うのは、早とちりです。
友人の場合は、結婚当初、現金で預金をしていたら奥さんがすべて教会に献金してしまうので、すかさず預金をマンションのローン頭金にあてて、間一髪のところで無一文にならずに済みました。
お気に入りの食器やレコード類も、生活必要品としてすばやく居間に配置したので無事に残りました
それでも、僕の友人はまだ恵まれているほうで、献身者(統いち教会系列会社で働いている夫婦)の場合は数家族の共同生活の家賃や食費はかかりませんが、朝から夜遅くまで働きずめで一家族1万二千円の月収です。
「カラ」兄弟でも、スメルジャコフは、フョードル宅からいつのまにか去勢派の共同生活場?らしきマリアの丸太小屋に移されていますね。
(10)
[497]
RE:ドスト氏の異端派(分離派・去勢派など)への関心のこと
名前:オドラデク
投稿日時:09/02/18(水)
「去勢派」については、江川さんが「謎ときカラマーゾフの兄弟」で次の様に書いています。
「ロシア分離派史上でも最大の人物と目されるコンドラーチイ・セイワーノフが登場した。〜〜〜やがてセイワーノフは、鞭身派の性的堕落にいきどおり、自分
は人類を肉欲から救い、「魂を滅ぼす蛇を退治する」ためにこの世にやってきた「神の子」であると宣言した。むろん「蛇」とは男性の性器官の象徴であり、 「蛇退治」は「去勢」の意味である。このような形でセイワーノフによって開かれた新しい宗派が「去勢派」であり、信徒は「ぺチャ−チ」(刻印)と呼ばれる
術を受けることになった。女性の場合は、乳首だけを切除するのが「小ぺチャーチ」、乳房まで切り取るのが「大ぺチャ−チ」と呼ばれた。男性の場合の「小ぺ チャ−チ」は睾丸を切断するわけだが、「大ぺチャ−チ」については、手術を終えたあと、術者が切除部分を被術者の目の前に突きつけ、「見よ、蛇の頭は砕か
れたり、キリストはよみがえりたまえり」と唱える、のだという。
〜〜〜鞭身派の聖母アクリーナから正式に「キリスト」と認められたセリワーノフは、「魂を滅ぼす蛇を退治する」自身の事業をしだいに広め、十八世紀中葉に
は、信徒の数ももはや無視できなくほどの数に達していた。〜〜〜ついに一七九七年には、ピョ−トル三世とエカチェリーナ女帝の遺児であるパーべェル一世と 対面し、二人の間には次のような問答がかわされたという。
パーべェル帝「汝はわが父なるや?」
セリワーノフ「われは罪の父ならず。わが業(去勢)を受けよ。さすれば汝をわが子と認めん」
ファンタスチックとしか形容のしようのない対話で、パーべェル帝がセリワーノフを狂人と認定し、オブホフの精神病院に収容してしまったのも無理からぬこと
であった。ところが奇妙なことに、パーべェル帝の後を襲ったアレクサンドラ一世は、すでに白髪の老爺となっていたセリワーノフの人柄に魅惑され、一八〇二 年に彼を解放したばかりか、数次にわたって彼と親しく面談し、セリワーノフのほうでも、大去勢によるロシア救済計画を帝に建議したといわれる。〜〜〜つま
り、「カラマーゾフの兄弟」の舞台となっている十九世紀の六十年代、七十年代にも、この奇怪な信者たちの問題は、けっしてたんなる昔語り、あるいは僻地の エキゾチックな風習ではなく、むしろすぐれて現代的な関心事であったということができるように思う。
(「謎ときカラマーゾフの兄弟」V好色な人々・Z白いキリスト ページ158〜159より。江川卓 新潮社。)
(11)
[498]
RE:ドスト氏の異端派(分離派・去勢派など)への関心のこと
名前:オドラデク
投稿日時:09/02/23(月)
続き
「まぎれもなく「好色な人たち」である「カラマーゾフの兄弟」の作中人物たちのなかで、スメルジャコフ一人はいくぶん例外的に見える。
まず彼の少年時代の大好き遊びが猫の葬式ごっこだったことが想起される。彼は幼い頃から、猫を首吊り台にかけ、そうしておいてその葬式ごっこをするのが大
好きだった、と言われている。葬式のときには、祭服に見立ててシーツをひっかぶり、香炉代わりに何やら猫の死体の上で振りまわしながら、歌をうたうのだという。
モスクワへ、コック人の修業に出されて戻ってきた彼は、「すっかり面変わりがしていた。なんだかふいにめっきり老けこんだ感じで、年齢にまったくそぐわないくらい皺だらけになり、顔色は黄ばんで、去勢者に似た感じになっていた」
「大審問官」伝説をアーリョーシャに語った直後、家に戻ったイワンは、門のわきのベンチで夕涼みをしていたスメルジャコフを目にする。「イワンは怒りと嫌
悪の目で、びんの毛を櫛できれいに撫でつけ、ふっくらと前髪を立てたスメルジャコフの去勢者のように痩せこけた顔をにらめつけた」
見るとおり、スメルジャコフはドストエフスキーによって、ことさら「去勢者」に、あるいはさらに進んで「去勢派信徒」になぞえられている。さらに注目さ
れるのは、マリアの家に移ったスメルジャコフが、母娘によっていたく尊敬され、二人はスメルジャコフを「一段上の」人間のように見ていた、という指摘である。「一段上の」という言葉にこだわるのは、鞭身派以来、代替わりのいわゆる「新キリスト」は、旧キリストあるいはマリアによって「一段上の人、最上の
人」として彼らの共同体である「船」に迎えられる慣行があったからである。〜〜〜スメルジャコフが「花婿」の資格でマリアの家に移ってきた、とされている ことも見逃せない。ロシア正教会においてばかりでなく、西欧のキリスト教会においても、「花婿」という言葉は、ヨハネ黙示録の「子羊」、つまり 花嫁たる
教会を聖化する「花婿」、別の言葉でいえば、再来するイエスキリストその人を指す言葉であった。
〜〜〜 ところで、スメルジャコフが去勢派の「白いキリスト」だということになれば「蛇退治」(フョードル殺し)は、当然、彼の宗教的、社会的使命だという
ことになる。こうして、もともとは多分に個人的であったかもしれないスメルジャコフの犯行の動機が、いわば去勢派流に「聖化」され、普遍的な意義を獲得することになるのである。〜〜〜前にも触れたが、幼児期の彼が大好きだったという猫の葬式ごっこのエピソードがそれに当ることは、あらためて言うまでもある
まい。このようなスメルジャコフが、鞭身派、去勢派の「船」が数多くあったモスクワへ「修業」に出て行ったとき、「猫」ないし「蛇」に対する彼の憎悪は一つの基礎ずけを与えられ、同時に深く内攻していくことになった。こうして彼は外なる「蛇」を挫く以前に、まず自身の内なる「蛇」を挫くことを決意するので
ある。つまり、「去勢者に似た感じ」になってモスクワから戻ってきた彼は、すでに「白いキリスト」の自覚をもち、フョードル殺害にあたっては、もはや完全 な確信犯として行動することができたのである。ところで、スメルジャコフの犯行がそのような「使命感」に裏ずけられたものだったすれば、当然、彼の憎悪は
たんに個々の「蛇」だけにではなく、「蛇」一般に、さらにはそのような「蛇」のはびこる現世そのものにも向けられていたと考えなければなるまい。事実、彼 の憎悪は、カラマーゾフ一族を生み出した土台であるロシアそのものにも向けられていた。「私はロシア全体が憎くてならならないんですよ」とは、彼のマリヤ
への告白である。〜〜〜スメルジャコフの憎悪は、むろん、ロシアだけに局限されはしなかった「女にだらしがない点しゃ、外国人もロシア人も似たり寄った り」だからである。〜〜〜一方、スメルジャコフが目撃するカラマーゾフ一家の「淫蕩」が、全ロシア的な、あるいは世界的な「淫蕩」の象徴的な縮図とするな
らば、それは、「大審問官」伝説に登場する「野獣にまたがる淫婦」を媒介にして黙示録的終末のイメージとも重なってくることになる。折りしもいまは「蛇の 季節」でもあった。スメルジャコフはこの終末の世に、「蛇」を退治し「淫婦」を辱めるべき「白いキリスト」として再来したのだった」
(謎解き「カラマーゾフの兄弟」 江川卓 新潮選書 Z 白いキリストより)
去勢を血統転換に置き換えれば、統一教会の教えそのものになります。
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