ドストエフスキーの小説 ()

『悪霊』について
(更新:24/11/20)
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これから読む人は、以下、ネタ
ばれの箇所(
の箇所)に注意! 



『悪霊』

〔事項〕

説明: http://ss390950.stars.ne.jp/bo.gif概要、登場人物
(更新:24/11/20)

説明: http://ss390950.stars.ne.jp/bo.gif創作・発表された時期
(章「スタヴローギン
の告白」のこと)
(
更新:24/11/20)

説明: http://ss390950.stars.ne.jp/bo.gif題材、主題

説明: http://ss390950.stars.ne.jp/bo.gif『悪霊』を論じた本や論

説明: http://ss390950.stars.ne.jp/bo.gif《邦訳・一覧》

説明: http://ss390950.stars.ne.jp/bo.gif映画化・マンガ化されたもの




概要、登場人物
(
更新:24/11/20)

長編小説。当代のロシアの某県のとある町を舞台にした社会小説・政治小説・恋愛小説

スタヴローギン(=ニコライ)
(軍務の合間の決闘事件や放蕩、四年前に町に戻ってきた際の数々の奇行、その後のヨーロッパ・近東の放浪などの過去を持ち、知力体力ともに人並みはずれた美貌の貴公子)
は、町の社交界で権勢を回復しようとしているワルワーラ夫人(スタヴローギンの母)の住む故郷の町へ四年ぶりに戻ってきた。
彼には、町に住む足が不自由で神がかりの狂女
マリア・レヴャートキナ嬢と過去に外国で結婚していたとの疑いを初め、過去におけるいくつもの色恋沙汰や情事のうわさが立っていた。

町では、
ピョートル
(スタヴローギンと同時に町にやってきた社会革命活動の策士の青年。ステパン氏の息子。)
レンプケ夫人(新市長夫人)に取り入り、労働者たちを扇動し仲間を操り、スタヴローギンをカリスマに仕立てて、町に騒乱を起こそうと画策・暗躍していた。

慈善会主催の町の祭りの日、
町は大火に包まれ、その騒ぎにまぎれて、延焼した一軒家でマリアとレビャートキン二等大尉(マリアの兄)の惨殺された死体が発見される。この殺害は、スタヴローギンの教唆のもと、脱獄囚フェージカのしわざだった

その成果を見届けたピョートルは、
元仲間の
シャートフ
(ロシア・メシアニズムを信奉する青年。スタヴローギン家の農奴のせがれ。)
を、
シャートフによる密告を恐れる仲間たち
(
県の役人
リプーチン、妻が産婆をしている役人ヴィルギンスキー、ユダヤ人リャムシン、独自の社会理論の持ち主シガリョフ、年輩のトルカチェンコ、ピョートルに心酔している若者エルケリ)
をひき連れてひそかに殺害し、
(
突然舞い戻ってきた元妻マリイとその出産にシャートフが喜びにひたっている最中のことだった)
かつ、友人の
キリーロフ
(人神思想を標榜して特異な自殺哲学を抱いて自殺を図る気のよい設計技師の青年)
にシャートフ殺害の主犯であったとの遺書を書かせてピストルによる自殺をさせて、ひそかに町を去るのだった。

一方、言動がスキャンダラスな行為・奇行に向かってしまうスタヴローギンは、
町に住むチーホン僧正のもとを訪れて、
・過去に自分は
マトリョーシャという少女を誘惑して凌辱の性的関係を持ち自殺しようとする彼女を黙視して自殺に至らしめたこと
・悪魔らしきものの幻覚に見舞われること
などを、公表を覚悟のうえ告白する

も、彼の真意は理解されることなく、その告白はむなしく終わり、
(※この告白は、当時の連載や刊行においては掲載されなかった章「チーホンのもとで――スタヴローギンの告白」に記されている。)
祭の夜に密会した愛人リーザに去られ、残された望みであったダーシャ(=ダーリヤ)(ワルワーラ夫人の養女でシャートフの妹)の献身的な看護の申し出も退け、ついには、虚無と倦怠の中で自ら縊死してしまう

一連の殺害事件も、
ついに、リャムシンの自首で、真相が明るみに出、関係した者たちは次々と逮捕されていったが、ピョートルの行方は全くわからなかった

その他の登場人物として、

この事件の記録者で作中にも登場してくる(=アントン=G)
終盤で、放浪の末、回心を遂げる西欧派の理想主義者の
ステパン氏
(元大学教授。少年期のスタヴローギンの教育係。ピョートルの実父。ワルワーラ夫人宅で彼女の庇護のもと食客として過ごしている。)
リーザに寄り添う婚約者
マヴリーキー、
父があしらわれたことでスタヴローギンに決闘を申し込む若い地主ガガーノフ
揶揄的に描かれている大文豪カルマジーノフ(作家ツルゲーネフをモデルにしている)
も配されている。



創作・発表された時期
(※ 未発表に終わった章「スタ
ヴローギンの告白」
のこと )
(
更新:24/11/20)

欧州滞在中、692月の『白痴』の完結の前の68年末から、最初は、『無神論』などと題して構想されていたが、6911月に起こったネチャーエフ事件に触発され、その事件を取材して、内容を加えて、新たな制作に取り組み、71年1月から月刊雑誌「ロシア報知」に連載が開始され、第1部の完結を経て、同年の11月号に第2部の第8章までが掲載された。

しかし、同年の12月号に掲載される予定であった、
第2部の第9章「チーホンのもとで――スタヴローギンの告白」は、その内容は婦女子が読むに好ましくないということで掲載のゴーサインが出ず、発行側は当章の書き直しを要求してきた。その影響で、『悪霊』の連載は同年12月号からしばらくの間休止にすることとなった。

作者は、第2部は第8章で終えて、書き直した章「スタヴローギンの告白」を第3部の第1章に組み入れようと考えたが、1年後に連載が再開した72年の11月号には、
第2部の第9章、第10章として
・章「ステパン氏差押え」
・章「海賊たち。運命の朝」
及び、
第3部の第1章として
・章「祭――第1部」
をはじめ、元の第3部の前半の章が掲載されて、
その時も、書き直した章「スタヴローギンの告白」は掲載がかなわず、そのあとは、同年12月号では第3部の後半が連載されて、『悪霊』は、いちおうの完結を見た。

手直しが加えられた
章「スタヴローギンの告白」その後刊行された単行本『悪霊』の中にも入れられることはなく(そのぶん、章「チーホンのもとで――スタヴローギンの告白」の内容の伏線であった第2部の第3章の一部の削除が行われている)、ドストエフスキーはこの世を去った。


章「スタヴローギンの告白」の原稿等は、行方知らずになっていたが、ドストエフスキーの死後の1921年に、

・雑誌の編集部から当時送ら
れてきたそ
の初稿刷り版
(第2部第9章
として掲載予定
だった
初稿版@)

に著者の数多くの加筆や
削除が加えられたもの
(
=第3部第1章
として掲載予
定だった
ドストエ
フスキー校版A
)

・アンナ夫人がドストエフ
スキーの没後に筆写し
たも
(筆写版B)

として発見されて、日の目を見た。


なお、邦訳では章「スタヴローギンの告白」については、

校訂して定めた本文
を本来の位置(第2部8章と
第2部9章の間)に置く

[
米川正夫訳・岩波文庫、
小沼文彦訳・
筑摩版全集
のぶん、
池田健太郎訳・
中央公論社刊のぶん]

校訂して定めた本文
を第2部(全10章)
末部に置く

[米川正夫訳・河出書
房版全集のぶん
]

・差異がわかるようにして、
以上の3つの版(@AB)
を別途に末部に付す
[
江川卓訳・新潮
社刊のぶん]

以上の3つの版(@AB)
を別途に別巻に収録する
[
亀山郁夫訳・光文社
古典新訳文庫のぶん]

の4通りの処置が施されている。




題材、主題

当時の社会事件
(69
11月のメンバーを殺害したネチャーエフ事件。ドストエフスキーの身内に事件に関わった人物を知る人がいて、その人を通して事件の経緯を詳しく取材した。)

実在した人物
(
スタヴローギン、ピョートル、シャートフ、ステパン氏、キリーロフ、カルマジーノフ等のモデルとして、政治思想家・大学教授・作家等)

青年期のペトラシェフスキーサークルでの活動や仲間たち
(
スタヴローギンのモデルとしてスペシネフなど)


を、取材し、モデルにし、題材にしている。

事件の記録者で登場人物でもある
が過去の出来事として語るという形式をとっている。

彼らに影響を与えた彼らの親(ステパン氏)も含めて、社会革命活動の策士・ピョートル、本作の中心的人物として造形されたカリスマ的な超人・スタヴローギン、孤高の
人神思想の提唱者・キリーロフをはじめ、優秀でありながら、ロシアの大地(根源や伝統)から遊離し社会革命という目的のためなら伝統の破壊も人の命の犠牲も顧みない活動家たち、無神論思想へと走る青年たち、近代の西欧の合理主義のもと、そういった青年たちを育ててしまった親たち、といった当代ロシアの群像を、痛烈な糾弾と風刺を込めて描いている
冒頭に
ルカ福音書の一節を引用している通り、彼らが持した社会革命思想と無神論思想の観念を、彼らに取り憑いて彼ら及び社会を狂気・悪行へと混乱・破滅へと走らせる「悪霊」に見立てて、当小説のタイトルとしている。
一方、青年シャートフが信奉して唱導するロシア・メシアニズム、罪の霊的共同性(ソボールノスチ)や、終盤における西欧主義者だったステパン氏の放浪の果てにおける回心は、作者ドストエフスキーが理想として抱いていたロシアの伝統の宗教的精神への誘(いざな)いと回帰を表したものと言えよう。


 ← 「私は『悪霊』の中で、この上なく純潔な心を持つ人間でさえ、身の毛のよだつような悪事へとまきこまれていくその多様をきわめた動機を描こうとしたのである。」
(
週刊雑誌「市民」に発表された「現代的欺瞞のひとつ」(1873)の中のドストエフスキーの発言。)


 悪鬼が入り込んだ豚たちが悪鬼に導かれて気が狂い崖から海に飛び込みおぼれ死んでしまうが、やがて彼らの病は癒えてイエスの足もとに座るであろう。〔以上その趣意〕」
(
最後の放浪におけるステパン氏の言葉。新潮文庫の下巻のp493p494。このルカ福音書の文は作の冒頭にも引用されている。)


ピョートルやシガリョフが述べた政治思想・社会思想、作中のシャートフ殺害事件は、その後20世紀に起こる社会主義革命後のソビエト共産主義体制下の独裁・密告・粛清、社会革命を目指す組織の組織内暴力事件(日本の学生運動組織内でのリンチ殺人事件)を予見し警鐘したものとして現在でも注目されている。


 ← スパイ制度や密告を提唱。「時に中傷や殺人もありえる。」
(グループの首領ピョートルが語る秘密結社グループの革命組織活動のスタンス。新潮文庫の下巻のp124p125)


 ← 「わたくしの結論は、出発点となった最初の観念と、直角的に反対している。つまり、無限の自由から出発したわたくしは、無限の専制主義をもって論を結んでいるのです。しかし、一言申し添えておきますが、わたくしの到達した結論以外、断じて社会形式の解決法はありえないのです。」
(作中に登場するシガリョフの社会統治をめぐっての言葉。新潮文庫の下巻のp101)




『悪霊』を論じた本や論

・内容を論じ
た本
( )
・主要登場人物
を論じた本
( )

・『悪霊』の論( )
・主要登場人物
を論じたもの
( )

 


《邦訳・一覧》
はおすすめのぶん。

江川卓訳
新潮文庫、
新潮世界文学(14)

新潮社版全集(13)

米川正夫訳
岩波文庫、
河出書房版全集(11)

小沼文彦訳
筑摩版全集(巻9)

池田健太郎訳
中央公論社「新集 世界
の文学」(15・巻16)

亀山郁夫訳
光文社古典新訳文庫



映画化・漫画化されたもの

映画『悪霊』( )
・ドラマ『悪霊』( )
・マンガ『悪霊』(
)



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